高校生・勤労青少年の子をもつ保護者の皆様へ

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「名づけるということ」
茨城県高等学校長協会長(石岡一高 校長) 白土 毅 氏

  四月からのNHKの朝のドラマは、日本の植物学の礎を築き、数多くの新種を発見したことでも知られている牧野富太郎をモデルにしたものでした。 
 彼の言葉に「雑草という草はない」というものがあります。
それは、雑草の様に見える草であっても、その特徴や個性に基づいた、その草にふさわしい名前があるということでしょう。
 また、彼が数多く発見した新種であっても、実は以前から存在していたにもかかわらず、誰も気にもとめずにいた植物に対して、彼が目を向けふさわしい名前をつけたということであると思います。
 植物に限らずこの世界の存在するすべてのものに、名前があります。
 私たち人間も、新たな命が生まれた時に、その命に対して名前をつけます。命の名と書いて「命名」と言います。人間の場合、名前には健康や将来の姿など、その命が生きる上での拠り所となる様々な願いが込められています。
 今、生徒たちを取り巻く社会は大きく変化しています。民法の改正によって十八歳が成人となり、これまでより早く高校在学中に「おとな」になることを求められるようになりました。また、AIやバーチャルの発展も予測不能なスピードで進んでいます。
 今後、将来に渉って豊かな人生を送るためには、こういった変化に対応することができる能力が必要になると言われています。
 その能力は、例えば柔軟な思考や偏見を持たない見方、新たなものに挑戦する意欲などでしょう。
 そして、その基盤となるものは、様々な生活体験ではないかと考えています。生活体験を通して、自然や多くの人々と触れ合い自分とは異なる生き方や考え方の存在を知り認め受け入れ、上手に折り合いをつけることなどは、体験の中でこそ身に付いていくもので、言葉や文字ではなかなか伝わらないものです。
 幼少期から発達段階に応じて、意図的に生活体験を得る機会を作ることが、家庭における大切な教育の一つになると思います。
 子どもたちが、名前に込められた願いを体現し、これからの時代を豊かに生きていくことを願ってやみません。

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見守るって難しい  ~失敗を体験しても見守ることの大切さ~
認定NPO法人 水戸こどもの劇場 代表理事 平野 弥生 氏

 私たち、「水戸こどもの劇場」では、高校生を対象に、赤ちゃんとのふれあいを提供し子育ての楽しさや大変さを伝える体験授業「赤ちゃんが学校にやってくる」(通称「赤ちゃん学校」)を行っています。
 この授業では、興味があるなしにかかわらず、それぞれに何らかの学びがあればと願って、赤ちゃんや赤ちゃんのママ、パパ、ボランティアの皆さんとスタッフ一同が一丸となって取り組んでおります。
 高校生の中には、赤ちゃんのファーストシューズの写真を撮っている赤ちゃん好きな子や、お母さんから教わりながら抱っこしてもどうしたらよいかわからず固まってしまう子もいます。
 また、授業後には多くの感想をもらいますが、ある男子学生から「うちの親も自分のことをこうやって育ててくれたんだと思いました。最近はケンカしちゃうことが多いけど、帰ったらちょっと優しくしようと思います」と心境の変化を伝えてもらえたこともありました。そんなことを言いながら、また家でご家族とケンカをしていないかと少し心配ですが、授業を受けて何かを学んでくれたのではないかと思っています。
 私自身も、私生活では上は成人から下は小学生までの子をもつ親ですが、よくないとわかっていながら、つい周囲と比べてしまったり、こうしたほうが良い等々口うるさく言ってしまったりすることがあります。過去には私自身の不安や心配から、子どもに自分の意見を押し付けてしまったこともあるかもしれません。いわゆる過干渉と言われるものですね。ある時には、頼まれてもいないのに忘れ物を届けたり、夏休みの宿題を手伝いすぎたりすることもあったと思います。
 しかし、大事なのは子ども自身が自分の行動を選択し自分でやり遂げたり、失敗したりしていても、学ぶ機会を奪わないことだと思っています。そのことにより、子どもたちは様々な経験を通し、一人の人として成長していくのだと思います。
 「赤ちゃん学校」もそうですが、言葉で学ぶよりも“体験”することは子どもの心に強く刻まれていきます。こうした体験自体も、いずれ忘れてしまうものかもしれませんが、少しずつ成長していくことを信じ、失敗を含めて見守ることが大切なのだと感じます。
 

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親心
茨城県教育研修センター 所長 猪瀬 宝裕 氏

 「這えば立て、立てば歩めの親心」と言いますが、一方で「親の心子知らず」ということも。子が高校生にもなると、親は子との心理的な距離が離れていくように感じられることがあります。親は不安になったり心配したり。子はというと、友達や仲間と楽しそうにしていて、普段と特に変わりないように見えます。会話も少ないものだから情報不足でついついいろんなことが気になってしまう。思い切って言えば抵抗反抗、喧嘩になったり。
 私が自分の子とどう関わってきたかを振り返ってみると、こんな感じだったように思います。親心は子にとっては余計なお世話なのかもしれません。ですが、親は、やめることができません。勝手に計画を立て、勝手に心配し、勝手に先回りし、勝手に決めてしまう、なんてこともままあります。聞けばいいのに、相談すればいいのに、良かれと勝手に思って気を揉んで何かとしてしまう。そんな毎日だったと反省します。
 よちよち歩きのお子さんを見かけると、思わず転ばないかしらと心配になりませんか。周囲に段差や石ころなんかがあれば大変です。まさに、転ばぬ先の杖、状態です。親心とはそういうものではないかと思います。親心とは、見返りを求めず子のために、という純粋な気持ちではないかと思うのです。子が転んですりむいて血が出たと聞いただけで、自分がけがしたように痛みを感じたり、体が震えたりしませんか?もし、その場面を目撃していたらどうでしょう?
 親は子を、そっと見守り、そっと支え、そっと背中を押す、そんな関係ができたらいいなと思います。いつか、子が親になり、親心に気づく日があるかもしれません。そういえば私も、今ならわかる親との出来事や反省もたくさんあります。
 実は教育も親心で成り立っているように思います。家庭では保護者の、学校では子どもたちを愛おしく思う先生の親心のもとでのびのび成長している、私は教育をそんな風に捉えています。保護者も先生も親心で子どもたちを見守っている。何か心配事、不安なことがあれば親心を持ち合う同士ですから是非相談し、協力し合って子どもたちの成長を共に楽しみ喜びましょう。

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言葉の力で子どものドリームサポーターに ~ペップトーク~
AngeGardien代表日本ペップトーク普及協会ファシリテーター 菅野昭子 氏

 みなさんは「お子さんへ思いが伝わらないもどかしさ」を感じていませんか。「成長してほしい」「幸せになってほしい」思いが伝わらないのは悲しいですね。ところでその思い、どのような言葉で伝えていますか。
 
言葉の力で相手の可能性を最大限引き出す「ペップトーク」から3つの伝わるエッセンスを紹介します。
 
1.相手のあるがままを認める
まずはお子さんのあるがままを認め、言葉にしましょう。「悔しかったね」「辛かったね」「大変だね」わかってくれる相手に、人は心のドアを開けます。
 
2.ポジティブな思考回路を養い、お子さんの心に光を注ぐ準備をする
ミス→成長のチャンス できない→伸びしろ 物事はポジティブにもネガティブにもとらえられます。お子さんは様々な課題に直面します。あなたの言葉でポジティブな見方を示し、お子さんの心に光を注げるよう考え方のトレーニングをしましょう。ネガティブな気持ちが生まれたら「ありがとうそれは良かった」「それはつまりよく言うと」とつぶやくとポジティブな思考回路が開きます。
 
3.肯定形、行動に焦点を当てる
「遅れないで」と「時間を守ろう」また
「負けないで」「勝とう」「ベストを尽くそう」どの言葉が受け取りやすいですか?
 
言葉は肯定的な表現を選択。結果より自分次第で変えられる行動に焦点を当てましょう。肯定的な言葉は良いイメージにつながり、行動は気持ち次第で変えられます。
比べてみましょう。場面:模擬テストでミスして落ち込むお子さんへ
・エッセンスなし「自業自得。だからダメなのよ。いつもミスばっかりでまったく。」
・エッセンス全部入り「悔しかったね。修正するチャンスだよ。対策を練ろう。今で良かったね」
どちらの言葉がお子さんに活力を与えますか。
そうそう、ポジティブな思考回路を養うと自分も楽しくなりますよ。反抗的→考えがしっかりしている 態度が悪い→心を許している証拠 どうですか前向きな気持ちになりませんか。
私にも高校生の娘がいます。ペップトークで関係性が良くなりました。是非皆さんも取り入れてあなたの言葉でお子さんの可能性を引き出しましょう。ペップトークを話す人はドリームサポーター。皆様の仲間入りを歓迎します。
 

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子どもに寄り添う進路選択 ―「つくばね学」の取り組みを例として―
茨城県立筑波高等学校 校長 (茨城県社会教育委員) 茂呂 輝夫 氏

 筑波山のふもとに位置する筑波高校の北条地区は2012年5月6日、突然の竜巻により甚大な被害を受けました。自動車は宙を舞い、信号や電線が倒壊し、あたりは瓦礫が散乱した状態となったのです。特に、神社や一般家屋は倒壊し、5階建て雇用促進住宅の窓から家財道具が飛び出す有様でした。その時に学校近隣の被災家屋、公園、道路などの片づけを生徒が自主的にボランティアとして手伝ったという経緯があり、生徒と地域との関わりが始まりました。筑波高校では、学校活性化を目指し、地域の人たちとの連携を体験的地域学「つくばね学」と位置づけ、2016年度より6年間実践を進めています。この事業をとおして、生徒は社会に目を向け、自己実現に努めています。保護者のご理解と地域の方のご協力のもと、高い教育効果を上げています。

 そこで、親子での進路選択にあたり、以下の2つが大切であると思われます。
1.親子でボランティア活動や地域活動をしましょう。地域でのごみ拾いでもお祭りの手伝いでも簡単なことで構いません。親子で共通の課題や会話をすることに意義があります。親子の絆が深まり、お互いに信頼感が芽生えていきます。

2.茨城県内で災害があった地域を見学し、災害の状況やその後の復興を親子で確認しましょう。家族間の結束力が高まると同時に、危機管理能力の向上が期待できます。併せて、今後どのように地域へ貢献できるか等、子どもの人間的な成長も見込まれます。茨城県だけでなく、県外へ親子でボランティアに行くこともよいでしょう。今しかできない体験を親子で共有することが大切です。
 親子での体験活動が将来に目を向けるきっかけとなり、そのことが子どもに寄り添う進路選択につながっていきます。日々の家庭や地域での親子のふれあいを深めていくように心がけてください。(執筆時の職名で掲載しています)

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「親という漢字から」
県立水戸第二高等学校長 石井 純一 氏

 保護者である親御さん、その「親」という漢字を分解しますと、「木の上に立って見る」と分解できると聞いたことがあります。友だち関係のような、何でも言い合える傍目にはステキな関係を結ばれている親子関係をよく目にします。だからこそ、「木の上に立って見る」という、少し離れた関係で俯瞰(ふかん)することが求められていると考えます。
 この俯瞰するということは、よく言われることですが、具体的にどのようにすることなのでしょうか。様々な意見がありそうです。解答に困ったとき、原典(辞書的に考える)に戻ることを心がけています。「みる」とはどのように「みる」ことなのか辞書にあたることです。「みる」を表す漢字を調べますと、「見る、視る、観る、診る、看る」などがあります。この五文字に大事な意味があると思います。「見る」とは、子どもの様子をさりげなく見守り、見ていることが伝わるように、意識して視界に入るようにします。次に変化を感じるようにみます。その状況が「視る」です。いつもと比べてというキーワードのもと違和感を探します。違和感に気付けば、その違和感を基にさらに詳しく様子をみます。それが「観る」です。観察して得たことやこれまでのことなどを総合的に判断し、今後どのようにするかを考えます。それが「診る」です。当然、親としての思いを伝えたり、助言をしたりするための「診る」です。そして、最後に行うのが、「看る」です。看護という熟語が示すとおり、子どもが決めたことを尊重するとともに、どのような状況になっても、常に味方であることを子どもに伝えます。ここまで述べてきたことは、担任としてクラス経営で心がけてきたことです。言うは易し、行うは難しですが、保護者の立ち位置としても使えるのではないでしょうか。
 今春、教師生活最後の卒業生を送り出します。意識して視界に入り、時間が許せば多くの子どもたちと対話を心がけました。その際もこの五文字は有効に機能しました。
(執筆時の職名で掲載しています)

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大人の覚悟
水戸女子高等学校理事長・校長 鈴木康之 氏

  10年前の3月、私は心身ともに疲れ果てていました。東日本大震災で校舎・体育館が使用不能となり、復旧・復興に明け暮れた1年となったからです。
 新校舎建設着工を翌月に控えた平成24年3月の日曜日、「南三陸町に来て思いを共有して欲しい」と訴えているテレビ番組を偶然見ていました。そして翌月の週末、私は何かにとりつかれたように南三陸町へ車を走らせていたのです。
 大震災から1年以上経ったにもかかわらず、海岸から3キロも離れているのに原型を失い放置された数台の乗用車、ビルごと流され斜めになった建物など無残な光景が続きます。さらに車を走らせると70人以上が亡くなった志津川病院、鉄骨だけが残り、多くの犠牲者を出し大震災の象徴となった防災庁舎、そして無数の瓦礫の山。ここには絶望しかありません。東日本大震災による南三陸町の死者は620人、関連死20人、行方不明者211人(南三陸町HPより)にのぼり、まさに壊滅的な被害を受けたのでした。 
 鎮魂の祈りをささげた後、冷静に観察すると、コンテナハウスで営業しているガソリンスタンドに気づきました。さらにプレハブで営業しているコンビニも目に映りました。私は瞬時にこの方々の思いを鮮烈に感じたのです。「すべてを飲み込んで最善を尽くす姿勢」です。この思いが南三陸町復興の原動力になったことは言うまでもありません。以来、毎年南三陸町を訪問して教師として、大人として生きる姿勢を正し続けています。
 学校でも家庭でも教育の現場は良いことばかりではありません。むしろうまくいかないことの方が多いはずです。高校生は人口減少をはじめ、様々な課題を抱えた21世紀後半を生き抜く人材です。状況を嘆き、ため息をつき、愚痴をこぼし、言い訳をする大人の姿勢からは有為な人材は育つはずがありません。すべてを飲み込んでベストを尽くそうとする大人の姿から、若い世代の感性が刺激され、未来を逞しく生きる力が生まれるのです。「教育は後ろ姿」は、私の恩師の言葉です。
 大人の覚悟が問われています。

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子育ては社会人になるまで育てる
親業訓練インストラクター 安 のり子 氏

 私は、親業訓練インストラクターをしています。アメリカの臨床心理博士トマス・ゴードン氏が親のためのプログラム(Parent Effectiveness Training)として創案したものです。ゴードン氏は、子育ては「ひとりの人間を産み、養い、社会的に一人前になるまで育てる」と言っています。その言葉が身に沁みた出来事を紹介します。
 息子は大学1年生の後半から就職活動を始め、インターシップの為の試験を受け、某大手企業の本社がある東京へ通っていました。流通関係の仕事がしたいとしっかりと目標を立て、中小企業の内定も4社決まり、その4社も「本命の企業の子会社で面接を受ければ予行練習になるから」と作戦を練って取り組んでいました。功を奏し、希望の企業に就職しました。ところが、入社してから1年が過ぎ、一人暮らしをしていた息子がまめに帰ってくるようになったのです。元気も無いし少し痩せたようです。「ちゃんと食べてる?」と聞くと「仕事辞めたい…」とつぶやきました。私は『あんなに頑張って就活したのに…?』と思いましたが、まずは話を聞くことにしました。
 息子は自分の希望した流通の仕事に関われず、半年を経ても店舗の仕事ばかりでこの先が不安になったそうです。親目線だと福利厚生も、給料も良い、独身のうちは家賃も配慮されている…安心していたのです。しかし、息子は一度吐き出した不平不満は怒濤のような勢いで止まりません。夫とも相談をしながら、じっくりと息子の話を聞く覚悟を決めました。自分の夢を描けない不安に「このままだと幸せになれない」と何度も言い放つ息子の言葉に、私は「再就職を反対しているのではなく、あなたをフリーターや無職にすることだけは避けたいの、この先の計画や再就職の当てがあるのであれば私は安心するのよ」と正直な気持ちを伝えました。
 半年後、息子は、就活する予定の企業や面接日、いつ退職し、引っ越しするか等々のスケジュールを知らせてきました。あの時、時間を掛けて息子の話が聞けた事と私の本音が伝えられた事で息子の背中を押す事が出来たのだと思います。
 現在は、再就職した企業でとても生き生きと働いています。

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